大判例

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東京高等裁判所 平成5年(ネ)3608号 判決

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(二)  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

本件控訴をいずれも棄却する。

二  当事者の主張は、原判決事実摘示(原判決二枚目裏四行目から七枚目表一行目)のとおりであるから、これを引用する。

三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因及び抗弁についての当裁判所の判断は、次のとおり補正するほか原判決理由説示(原判決七枚目表五行目から同裏四行目)と同一であるから、これを引用する。

原判決七枚目表九行目から一〇行目にかけての「一二万三〇〇〇円」を「一二万〇三〇〇円」と改める。

二再抗弁(無断譲渡を理由とする解除の主張)について

1  当事者間に争いがない事実、<書証番号略>、証人高橋秋男の証言、控訴人代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  控訴人会社は、一般区域貨物自動車運送業等を目的とし、資本総額一〇〇〇万円(昭和五三年九月に二〇〇〇万円に増資)で、昭和四六年六月一日に高橋を代表取締役として設立された有限会社であり、高橋が経営を担当し、その持分はすべて高橋とその妻及び子供三人により保有され、役員には高橋の妻や一族が就任するなど、形式的に法人格を有するとはいえ、実質的には高橋の個人会社であった。

(二)  高橋は、平成三年九月二〇日、個人で運送業を営んでいた堀に対し、控訴人会社の持分全部を控訴人会社の営業権・本件建物・自動車・什器備品・得意先一式とともに九八〇〇万円で売り渡し、堀が控訴人会社の代表取締役に、妻がその取締役に、その子供が監査役にそれぞれ就任し、これに伴い控訴人会社の自動車、什器備品、得意先及び従業員はそのまま堀に引き継がれ、控訴人会社は実質的には堀の個人会社となり、高橋は控訴人会社と一切の関係を断つに至った。

(三)  また、堀は、そのころ、高橋から本件土地建物の引き渡しを受け、高橋から引き継いだ自動車や従業員に、従前からの自動車や従業員を交え、右土地建物を占有使用して、爾来、高橋と同様の運送業を営んでいる。

2 してみると、本件は、単に控訴人会社の代表者の地位が高橋から堀に変更されたというものではなく、控訴人会社という個人的有限会社の経営者である高橋が、その持分全部を含め控訴人会社の営業の一切を新たな経営者である堀に譲渡して控訴人会社から手を引いたというものであり、右譲渡の前後を通じて、控訴人会社の法人格は形式的には同一性を保持しているとはいえ、控訴人会社のごとき小規模な個人会社においては、賃借人である経営者と地主との個人的な信頼関係に基づいて不動産賃貸借契約が締結されるのが通常であり、経営者が経営から完全に撤退して新経営者が経営を担当し、不動産を使用するに至ることは、その実質に着眼すれば、旧経営者から新経営者に対し賃借権の譲渡がなされたものというべきであるから、実体的には高橋から堀に対し、本件土地の賃借権が譲渡されたものとみるのが相当である。

3  被控訴人らが控訴人に対し、平成四年八月二五日の原審口頭弁論期日において本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

4  そうすると、右被控訴人の再抗弁は理由がある。

三再々抗弁1(賃借権譲渡の承諾の主張)について

<書証番号略>及び証人高橋秋男の証言中には、宏巳が高橋に対し、本件賃借権の譲渡について承諾をしたことに沿う供述記載部分及び供述があるが、これに反する趣旨の証人瀧戸宏巳に照らしてにわかに信用することができず、他に右承諾の事実を認めるに足りる証拠はない。

よって、賃借権譲渡の承諾についての控訴人の主張は採用できない。

四再々抗弁(背信行為と認めるに足りない特段の事情の主張)について

1  前記認定事実によれば、控訴人会社の代表者が高橋から堀に変更した後においても、本件土地の利用状況について概ね変化がないものと認められる。しかし、他方、前記認定事実、<書証番号略>、証人瀧戸宏巳、高橋秋男の各証言及び被控訴人山梨重機代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ、これに反する<書証番号略>及び証人高橋秋男の証言は採用しない。

(一)  政夫は、昭和四五年四月ころ、妹の娘婿であり人間的に信頼していた透の口添えもあったことから、透の実兄である高橋が代表者となる予定の設立中の控訴人会社に対し、本件土地を賃料一か月四万円、期間五年、使用目的を道路運送法による旅客又は貨物自動車運送事業経営施設に限り、書面による承諾なく賃借人が賃借権を第三者に譲渡し又は賃借土地の転貸をするとき及び名目の如何を問わず同様の結果を生ずる脱法的一切の行為をなすときは賃貸人は契約を解除することができる旨の約定で貸し渡した。

(二)  政夫は、その後数回にわたり、高橋に対し、賃料の増額を申し入れ、高橋がこれに応じた結果、政夫が死亡した昭和六〇年六月当時、本件土地の賃料は月一〇万〇二五〇円となっていた。政夫を相続した宏巳は、高橋に対し、新しい賃貸借契約の締結及び賃料の増額を要求したが、経費がかかること等を理由として高橋は容易に応ぜず、平成元年一月以降月約二万円の賃料増額に応じたものの、賃貸借契約書面の取り交わしには応じなかった。

(三)  宏巳は、平成三年六月ころ、高橋に対し、再度賃貸借契約書の取り交わし及び賃料増額を申し入れたが、高橋はこれを拒絶する一方、同年七月ころ野呂瀬修司を伴い宏巳方を訪れ、本件土地のうち借地権分として半分位を現物で譲り受けたいと要望したことから宏巳の心証を害し、宏巳は同年八月以降の賃料の受領を拒否し、同月中旬に高橋に対し、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

(四)  こうした経緯のなか、高橋は、前記のとおり、平成三年九月二〇日、堀に対し、控訴人会社の持分及び営業の一切を九八〇〇万円で売り渡し、控訴人会社の経営から手を引いた。

2  以上に認定した本件土地賃貸借契約及び賃借権譲渡に関する各事実によれば、控訴人会社の代表者が高橋から堀に変更した後において、従前と比較して本件土地の利用状況について概ね変化がないとしても、本件賃借権の無断譲渡について賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情の存在を肯認することはできないことは明らかであり、他にこれを肯認するに足りる事情の存在を認定するに足りる証拠は存しない。

したがって、控訴人の再々抗弁2は理由がない。

五再々抗弁3(権利濫用の主張)について

当裁判所も控訴人の権利濫用の主張は採用できないと判断するが、その理由は原判決理由説示(原判決一一枚目表四行目「原告山梨重機」から同裏五行目まで)と同一であるから、これをここに引用する。

六以上によれば、控訴人の主張する再々抗弁はいずれも理由がなく、採用することができない。したがって、その余の点につき論じるまでもなく、被控訴人の本訴請求は原判決の認容する限度において相当であり、控訴人の本件各控訴はいずれも理由がなく失当である。

よって、原判決は相当であるから、控訴人の本件各控訴を棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清水湛 裁判官瀨戸正義 裁判官清水研一は職務代行を解かれたため署名押印できない。裁判長裁判官清水湛)

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